あなたがずっと欲しかったものをやっと手に入れたことを想像してみましょう。
何でも構いません。出来れば幾分高額なものがよいでしょう。イメージしてみます。
喜び勇んでわくわくしながら帰宅したあなたは、その欲しかったものの使い心地を早速試してみます。
なるほど、あなたの見識眼は見事にその欲しかったものをぴたりと当てました。まるで、あなたの人生に光を照らす光明のような商品でした。
その使い心地をさらに確認すべくあなたは、いろいろと試してみることに余念がないことでしょう。
ところが、どうしたことか、そのものは暴走を始めてしまいました。思慮深いあなたはもう一度同じことを試してみます。するとどうでしょう。再び同じ現象が起こりました。確信を得るためにもう一度使い心地をゆっくりと振り返りながら試してみます。確実に再現することを、あなたは認識しました。
ここまでで、あなたの心は打ちひしがれてしまうことでしょう。長いこと欲しかった製品の不具合を発見してしまったのです。
さて、初期不良かもしれません。いずれにしてもあなたの想定を深く裏切られてしまったことに変わりはありません。まさに絶望を味わうことでしょう。
あなたは、この商品を作ったメーカーを許せるでしょうか。返品や交換には応じてくれることとは思いますが、あなたの期待は裏切られてしまったのです。
こういった現象は常に起きうることです。しかし、あなたは、このことを許せますか?
ユーザーは商品に対して常に希望を抱き、ときには夢を持つものです。しかし、この期待感はまれに裏切られる結果となることがあります。
今度は逆の立場をイメージしてみます。
あなたは、ソフトウェアのエンジニアです。
ユーザーの希望や夢を実現すべく、工夫に工夫を重ねて素晴らしいパフォーマンスを発揮する便利なソフトウェアを作り上げました。
そのソフトウェアをお客様に届けることを、出来るだけ具体的にイメージしてみてください。
お客様は使い心地をひとつひとつゆっくりと確認していきます。ひとつのイメージを想定しつつ、その結果を確認しながら、自分の希望が実現されている便利なソフトウェアに心躍る気持ちです。
ところが、ひとつのタイミングで結果が得られないという現象が起きました。お客様は疑問を持ちながらも、まだ消えていない希望の気持ちを維持しつつ、もう一度同じことを試してみます。今度は結果が得られないばかりか、反応さえ失われました。いわゆるフリーズ状態です。ここまできてお客様は不具合の確信を得ました。
あなたの作ったソフトウェアに不具合が存在したのです。
ただの不具合ではありません。さきほどあなたが経験した幻滅や絶望を、楽しみにしていたお客様に与えてしまったのです。
このようなことは比較的簡単に起こり得ることです。
あなたは、このようなイメージを常に持ち続けているでしょうか。
このようなイメージ、想像力、配慮を持ち続けることはとても重要なことです。
モノづくりの分野でよく言われることは、大量生産の世界で歩留り95%を叩き出せればかなり効率が良いと言えます。しかし、お客様のもとに届く製品は常に1/1の100%であるはずです。
これはどういう意味を持つことなのか? ここに想像力たくましく配慮をすることは、実はとても重要なことなのです。